2008年7月16日水曜日

第10回写真ワークショップ報告(7月12日)

今回のテーマは旅ということで「旅するカメラ: 写真家の旅と写真」と題したレクチャーを行い、その後藤岡亜弥さんの作品と皆さんの写真について話し合いました。

レクチャーでは個人、団体の地理的な移動を旅として取上げ、写真家が捉えた光景を大まかな時系列に紹介していきました。19世紀半ばのフランスで政府が写真家達を国中に派遣し歴史的建造物を記録したヘリオグラフィックミッションからスタートし、現代では韓国人アーティストが観光旅行者のステレオタイプをテーマに作品を制作するまでになっています。

藤岡さんは一年半に渡るヨーロッパ放浪中に撮った写真をまとめた「さよならを教えて」と、その本に入れなかった未公開の写真を持ってきてくださいました。旅の記録というよりはご自身の記録といった方が近い写真の数々はいわゆる「旅の写真=その土地の特徴を捉える」という図式から大きくはみ出ており、参加者の方々が抱いていた既成概念を変えるものだったのではないかと思います。

他には逆説的にNYでの生活を写した写真を持ってきてくださった方がいました。その方曰く、同僚は休みになるとヨーロッパ等の国外に行ってしまうが、元々異国であるこの土地も自分にとっては旅を感じる場所だということでした。確かにご本人が日本に帰国した後はそれらの写真が旅のような非日常の記録として残るのかもしれません。同じくNYの写真を持ってきて頂いた方はワークショップに向かう道すがらを旅と捉え、ショーウィンドウに移るご自分の姿や途中で食べたサンドイッチ等の写真を見せてくださいました。写真を撮ることでほんの数十分の移動を旅に変換できるという豊かな発想を感じる作品だったと思います。他には旅行先で撮影している旅行者を撮ったり、バスからの風景にあえて窓の反射を入れることで「旅らしさ」を強調した写真を持ってきてくださった方もいました。「人に見せる時はこういう方が面白いと思って」とおっしゃるその方が他にどのような写真を撮ったのか、そこにはない写真にも興味が注がれる写真でした。皆さんの遊び心や練られたセレクションのお陰で旅の写真のみならず旅そのものを問うような楽しい写真をたくさんシェアすることができたと思います。

今回参加してくださった皆さん、本当にありがとうございました!次回は7月27日(日)にメトロポリタン美術館のJeff Koons on the Roof展を皆さんと一緒に観にいく予定です。詳細は追ってお知らせします。今回お越し頂けなかった方もまた次回お会いできることを楽しみにしています。

第10回写真ワークショップのお知らせ

第10回写真ワークショップのお知らせです!

バケーションシーズンを間近に皆さんの旅行のプランニングも着々と進んでいる頃でしょうか。そんな時期に合わせて今回は「旅」をテーマに写真ワークショップを行いたいと思います。簡単な写真史を学ぶと共に写真を楽しむ眼を養うという目的のもと、今回も最初の30分程度を旅をテーマにした写真の歴史のレクチャーにあて、その後の時間を皆さんにお持ち頂いた写真について話し合いたいと思います。旅の途中で撮った写真、旅をテーマに撮った写真、または旅を連想させる写真等自由な発想でお好きな写真をお持ちください。July 4th weekendの旅行で撮られた写真でも、雑誌やインターネットから拾ったイメージでも結構です。バケーション前にこのワークショップに参加されることで旅行中の写真撮影がさらに楽しいものになるかも?しれません。

今回はゲストとして写真家の藤岡亜弥さんに御参加いただく予定です。
藤岡さんは一年半に渡るヨーロッパ放浪中に撮り続けた写真で2004年にVisual Arts Photo Award一般部門賞を受賞され、その写真から成る「さよならを教えて」は同年に出版されました。現在は文化庁の研修制度を利用してNYでご活躍中です。

写真ワークショップの詳細は以下の通りです。

日程: 7月12日(土)
時間: 17時~19時頃 (17時よりレクチャーを始めますので、なるべく5分前にお集まりください。)
場所: 酒井のアパートの会議室(500 West 56th st, at 10th ave)アパートのロビー集合。
椅子の数が限られている為参加人数多数の場合は床にお座りになって頂くことになってしまうかもしれませんがどうぞご了承ください。
お願い: 旅に関する写真をお持ちください。プリントアウトしたものでもフラッシュドライブに保存した画像でも構いません。


皆様にお会いできることを楽しみにしています!

第9回写真ワークショップ報告(6月28日)

今回は6月のテーマであるランドスケープに合わせて、PS1で行われたオラファー エリアソン展に皆さんと足を運びました。

元々学校だった建物を美術館に転用したPS1はユニークな展示スペースを持ち、常に2つ以上の企画展を同時並行して行っています。オラファー エリアソン展はMoMAで同時開催され、それに合わせてダウンタウン4箇所で人口の滝を設置した The New York City Waterfallsもお披露目されました(10月まで公開予定)。

エリアソンはデンマーク生まれアイスランド人で、デンマークでアートの教育をうけ、今はベルリンを拠点に活動しているアーティストです。主に自然界の要素、例えば霧、光、水などを使って観る人の知覚、感覚に訴える作品を多く創っています。

今回の目玉作品であるTake Your Time (2008)では天井に設置してある巨大なミラーがゆっくりと回転していくというもの。他の来館者と一緒に私達もその下に寝転び不安定に変化する空間を楽しみました。一刻一刻変化する作品とそれに関わる私達の知覚、感覚の変化を楽しんで欲しいというエリアソンの作品には一定の解釈は当てはまりません。一方で彼の写真作品はランドスケープが主題です。アイスランドは海嶺や間欠泉などの珍しい自然現象に恵まれた土地ということで、エリアソンは写真でアイスランドの自然のバラエティを記録しています。氷河や洞窟など同じモチーフを撮影しグリッド型に並べた作品は一見すると無味乾燥なデータの集積のように見えますが、カラーで撮られているその写真はよく見ると微妙な表情の違いを露呈しています。祖国であるアイスランドの土地に対する彼の思いが感じられる作品だと思います。参加者の皆さんもアイスランドの自然の豊かさを目の当たりにして驚きや感動を感じていらっしゃったようです。

展覧会を通して言えるのは、エリアソンが作品を通して試みていることは我々が普段当たり前と思っている空間、時間、自然現象を問い直すことだと思います。そのために我々の感覚や知覚を攪拌するような作品を数々生み出しているのだと思います。こうした作品を観ることで、水の流れや草の生え方等今まで当たり前だと思っていたことが新鮮に見え、ランドスケープ写真を見たり撮る時にも今までに気付かなかったような発見ができるかもしれません。

今回のツアーでは作品を体感できて楽しかったという皆さんの声を頂きました。御参加頂いた皆さん、本当にありがとうござました!次回は7月12日(土)、「旅」をテーマにレクチャーとディスカッションのワークショップを行う予定です。今回御参加頂けなかった方々も次回お会いできることを楽しみにしています。

2008年6月23日月曜日

第9回写真ワークショップのお知らせ

今回は6月28日(土)にクィーンズにある美術館、PS1で行われているオラファー エリアソン展を観にいく予定です。デンマーク系アイスランド人であるエリアソンは自然現象とその関わりを想起させるような体感的な作品を数多く制作しており、観る人と作品の関係も作品の一部と述べています。写真ワークショップ6月のテーマである「ランドスケープ」とは一見関係のなさそうな展覧会ですが、霧や光を駆使しながらアーティストが創り出す室内空間はランドスケープというコンセプトそのものを考えさせる興味深い作品だと思います。写真、彫刻、インスタレーション等様々な媒体の作品がご覧になれる今回の展覧会はアメリカ初のエリアソンの大規模な個展となります。6月30日をもって終了してしまうこの展覧会、普段クィーンズには縁のない方もこのチャンスに足を延ばしてみてはいかがでしょうか?1971年に設立されたPS1はアメリカで最も古い現代アート専門の美術館の一つです。元々は学校だった建物を美術館に転用したユニークな建物も一見の価値あり、だと思います。

ツアーは約1時間弱を予定しており、その後希望者の皆さんで夕飯をご一緒する予定です(レストランは未定)。恐らく大丈夫だとは思いますが、美術館と来館者への配慮から希望者が10名を超えた場合は誠に勝手ながらご遠慮頂く事もあるかと思いますがご了承ください。ちなみにリュックや大きいバッグは預ける必要がありますので、ご面倒な方は小さめの手提げなどをお持ちになると良いかと思います。

詳細は下記をご覧ください。

日時: 6月28日(土)16時45分

集合場所: PS1のロビー(フロントデスク前)

PS1
22-25 Jackson Ave at the intersection of 46th Ave
Long Island City, 11101
7番線45th Rd./Courthouse Square駅下車徒歩2分
電話:718-784-2084

美術館のウェブサイトはこちらをご覧ください。
http://www.ps1.org/ps1_site/component/option,com_frontpage/Itemid,1/
 
なお、入場料として大人$5学生$2がかかりますので、あらかじめご了承ください。MoMAメンバー並びにMoMAで30日以内に購入されたチケットの半券をお持ちの方は無料です。

正確な人数を把握する為に、お手数ですが下記に出席のご記入をお願いいたします。(ツアー後の食事会参加希望の方はその旨ご記入頂けると助かります。)
http://zephyr.or.tp/cgi-bin/ketsu/ketsu.cgi?id=94483a75d5ea

ワークショップに関するお問い合わせは手島(teshima77アットyahoo.co.jp)か酒井(sakaitaku1211アットyahoo.co.jp)までお願いします。

皆様にお会いできるのを楽しみにしています!

2008年6月16日月曜日

第8回写真ワークショップ報告

6月14日に第8回写真ワークショップが行われました。
今回のお題は「ランドスケープ」、その定義は様々ですがここでは単純に目の前に広がる景色という広い意味を採用しました。最初の30分を充てたレクチャーは「点在する風景: ランドスケープ写真の多様性」と題して、ランドスケープ写真のバラエティを大まかな時系列にお話しました。

簡単なランドスケープ写真の歴史をおさらいしたらここからが本番です。
皆さんに持ち寄っていただいた写真について皆さんで意見、感想、質問を交わします。今回は横澤典さんを始めとしてプロの写真家の方々も多く参加してくださったこともあり、かなり白熱したクリティークが繰り広げられました。そして作品自体の批評に加えて作品のプレゼンテーションの仕方についての意見交換も行われました。自分の作品を全く知らない人にどう説明するかというのは写真家の方にとって大きな課題だと思いますが、写真とは全く別のお仕事をされている参加者の方々のご意見や質問が大きなヒントになることがあります。例えば東京の夕暮れ時を捉えた写真を撮影されている写真家の方は、作品の説明としてご自分と写真の関わりについてお話してくださいました。それに対し、皆さんからは「どこで撮ったのか」「なぜ東京を撮り続けるのか」といった具体的な質問が挙がりました。写真評論家の方はそうしたやり取りを聞きながら、「作品を見る人にとっては作品の核に到達する為にいくつかのステップを踏まなければならないので具体的な情報をもっと提示した方が良い」とアドバイスされていました。一方で南国のビーチを中心にした写真を持ってきてくださった方は、ご自分で撮った写真とウェブから拾った写真を交えて音楽をつけてスライドショーで見せるというユニークな方法で発表されていました。他人と自分の写真を交えて保存・発表するという方法はプロの写真家の方々にはとても新鮮に映ったようです。

皆さんが積極的に質問や意見を交わしてくださったことでとても活気溢れるワークショップになったと思います。プロアマの垣根を越えてのディスカッションが皆さんにとって得るところの大きいものになっていたら幸いです。雨の中を参加して頂いた皆さん、本当にありがとうございました!今回残念ながら御参加いただけなかった方も次回の美術館ガイドツアー(予定)でお会いできることを楽しみにしています。

2008年6月9日月曜日

【6月14日(土)】第8回写真ワークショップのお知らせ

皆様

第8回写真ワークショップのお知らせです!
そろそろ夏も近づいて外を歩く機会も増えてきたのではないでしょうか。今回はそんな季節に合わせて「ランドスケープ」がお題です。今回も最初の20分を簡単なランドスケープ写真の歴史のレクチャーにあて、その後皆さんに持ち寄って頂いた写真について話し合って行きたいと思います。簡単な写真史を学ぶと共に、写真を個人的に楽しむ眼をこのワークショップで養って頂けたら幸いです。

「ランドスケープ」と言ってもここではいわゆる自然の風景に囚われずに、目に見える景色という大きいくくりで取り扱ってみたいと思います。人工的に作られたセントラルパークの景観、東京タワーから見下ろすビルの群れなど、広がりをもった外界の景色はどこに居ても身近なトピックなのではないでしょうか。より充実したディスカッションにする為に、ご自身の経験や思い出と深く結びついたランドスケープや、特に興味をそそられるランドスケープ写真をお持ち頂くと良いのではないかと思います。どうしてその風景、その写真が自分の興味をひくのかを皆で考えていきましょう。ご自身で撮られた写真でも、雑誌の切り抜きや写真集でも結構です。フラッシュドライブをお持ち頂いても構いません。

今回もNYでご活躍中の写真家、横澤典さん(http://tsukasayokozawa.com/)に御参加頂く予定です。ランドスケープを主題にした作品を制作されている横澤さんと一緒に、ランドスケープ写真の様々な見方やあり方を探っていきましょう!

ワークショップの詳細は以下をご覧ください。

日程: 6月14日(土)
時間: 17時半~19時頃 (17時半よりレクチャーを始めますので、なるべく5分前にお集まりください。)
場所:酒井のアパートの会議室(500 West 56th st, at 10th ave)アパートのロビー集合。
お願い:ランドスケープの写真をお持ちください。プリントアウトしたものでもフラッシュドライブに保存した画像でも構いません。

ご出席される方はこちら(http://zephyr.or.tp/cgi-bin/ketsu/ketsu.cgi?id=4e8f11b4d3b8)に登録をお願いします。

ワークショップのお問い合わせは手島(teshima77アットyahoo.co.jp)か酒井(sakaitaku1211アットyahoo.co.jp)までお願いします。

皆様にお会いできることを楽しみにしています!

2008年6月5日木曜日

5月31日第7回写真ワークショップ報告

5月31日(土)に写真ワークショップが行われました。
今回はInternational Center of Photographyという写真専門の美術館に皆さんと足を運びました。今行われているのはHeavy Light: Recent Photography and Video from Japanという現代日本人写真家13人のグループ展です。「日本」が写真ワークショップ5月のテーマということで、この展覧会で日本の写真の今を垣間見ようというのが狙いです。今回はNYでご活躍中のプロの写真家、棚井文雄さんに御参加頂きました。

写真ワークショップで美術館ツアーをしたのは今回が初めてだったのですが、以下の点を最初に説明させて頂きました。
1. 私の説明はあくまでも展覧会キュレーターの狙いとそれに少しの自分の意見を加えたものなのでそれが必ずしも見方の「正解」ではないということ。
2. ゆえに、皆さんの違う解釈や意見、質問や発言があれば何でも大歓迎!ということ。
以上のことを踏まえて、対話を交えて作品の理解を深めていくというツアーを目指しました。

ではそもそも日本の写真の今とは何か?ということなのですが、それはHeavy Lightというタイトルに要約されているように思います。Heavy(重い)、Light(軽い)という二つの相反する言葉の合わさっているこの言葉は同時に「重い光」という意味の成さない造語でもあります。このように曖昧かつとらえどころのない写真が日本現代写真の特徴ではないかということをキュレーター達は提案しています。例えば楢橋朝子さんのHalf Awake and Half Asleep in the Waterは泳げない彼女が海の中から水中と陸地を撮った作品です。水の中と陸地という二つの世界を見せつつもどちらに焦点が定まる訳でもなく不安定に揺れ動く彼女の視線は、見ている者に自然と戯れることの喜びと同時に恐怖の念を抱かせるような気がします。

13人の写真家の中でも特に皆さんが長い間足を止めていたのが、吉永マサユキさんの「ゴスロリ」と「族」でした。二つともこの展覧会ではテレビスクリーンに何十枚もの画像を映していく手法をとった作品です。その名の通りゴスロリ調の洋服に身を包む若者と暴走族の若者を捉えたこの作品は吉永さんならでは創り得たものかもしれません。暴力団の父親を持ち、そのことからいじめを受けた吉永さんはご自身も服役を経験したりテキ屋等の仕事を転々とした異色の写真家です。それゆえに日本社会の「はみ出し者」、「ならず者」を捉えるその目は驚くほど対等で、被写体からの絶大な信頼がそこに垣間見れます。

皆さんとバラエティに富んだ現代日本の写真を楽しんだ後はタイ料理レストランでお食事をご一緒しました。そこでも棚井さんに写真家から観たHeavy Light展についてなど実りの多いお話を伺うことができました。皆さんからは「解説が主観的な視点を交えたものだったから、自分も作品を見る時に自分なりの解釈をしていいんだと分かった」、「あれから他の友達と展覧会についての話でまた盛り上がった」といったお声を頂くことができました。

今回も参加者の皆様のお陰で充実したワークショップになりました。この場を借りて厚く御礼を申し上げます。次回は6月14日(土)を予定しています。また追って詳しいお知らせをさせて頂きますので、今回御参加いただけなかった方も次回是非お会いしましょう!